コラム

2022.08.05

インナーブランディングにおけるオフィスデザインの役割

アイキャッチ画像

社員に対するブランド体験提供の重要性

ブランド体験は顧客のためだけのものではありません。自社社員を始めとする社内ステークホルダーに向けた「インナーブランディング」のためのブランド体験設計も、企業にとって欠かせません。

 

インナーブランディングの目的は、社員らとのコミュニケーションを通じて自社の理念やビジョンを社内に浸透させ、企業が目指す方向性と社員の意識・行動に一貫性を持たせること。社員エンゲージメントの向上が期待でき、結果として生産性向上、離職率低下、製品・サービスの品質アップ、さらに社員自身による情報発信の積極化といった効果が得られると考えられます。

 

インナーブランディングは、中長期的なアウターブランディングの基盤づくりであるともいえるでしょう。


ブランドコミュニケーションのためのオフィスデザイン

従来のインナーブランディング活動は、セミナーや社内表彰式、社内報など、企業側から社員へ一方的にアプローチするスタイルが主流でした。これに対して、近年では社員と企業、また社員同士によるインタラクティブなコミュニケーションを通じて、社員へのブランド体験提供を試みる傾向が強くなっています。

 

こうした新たなインナーブランディングの文脈で注目されているのが、社員が物理的に集まるオフィスの存在です。オフィスを単なる仕事場ではなく、企業のビジョンや理念を社員が体感する空間として位置づけ、社員のブランド体験とセットで設計している事例が多数見られるようになっています。

 

今回は、そうしたインナーブランディング実践の場としてオフィスをデザインしている事例を3つご紹介しましょう。


地域コミュニティを形成するオフィス:Reti

イタリアのテクノロジー企業Retiは、ミラノにあるオフィスを地域コミュニティのハブとして展開しているのが特徴的です。


サステナブルな企業としてB Corp認証も受けている同社は「社員や消費者を始めとするすべての人々、地域コミュニティ、そして環境に対して包括的な利益を生む持続可能なイノベーションの推進者」を目指して事業を展開。このビジョンを体現するべく、2万平方メートルを超える広大なオフィス「Campus」では、社員や地域住民向けに本や食、アートに関するイベントを頻繁に開催しています。また、Retiに魅力を感じ、共感した地域の人材が同社にジョインできるよう、エンジニア向けのトレーニングセンターも併設しています。実際に2021年には71人の新入社員を採用し、うち20人が同社のトレーニングプログラムを受講したとのことです。

 (参考:Reti Webサイト

オフィス空間でコミュニティを形成し、ビジョン達成に向けた実践の場として機能させている好事例だといえます。


社員自らオフィスづくりに参画する:LinkedIn 

ビジネスSNSを展開するLinkedIn のオフィス「Workplace Lab」では、同社でオフィスデザインを担当するチームがオフィス改善の実験を常時行えるプログラムを実施しています。


実際に検証されているアイデアは、家具や照明、壁紙などのマイナーチェンジから、オフィス全体の大々的なコンセプト設計までさまざま。検証の結果、効果が期待できる改善策は世界各地の同社オフィスへ展開されます。


この「Workplace Lab」の狙いは、LinkedInのバリューのひとつ「インテリジェントなリスクテイキング」を社員に体験させ、社内浸透させること。主体的に実験を行う体験の積み重ねにより、失敗を恐れずチャレンジできるカルチャー、また同僚の失敗を許容できるカルチャーを醸成する場となっています。

 

オフィスが自社のバリューを体験できる場になっているだけでなく、企業を象徴する空間である「オフィス」を社員自らデザインするというインタラクティブな取り組みを通じて、社員エンゲージメント向上を促しているユニークな事例です。

(参考:「Workplace Lab」 紹介記事

オフィス環境が双方向のコミュニケーションを促す:Technogym

イタリアのジム機器メーカーTechnogymのオフィス「Technogym Village」は、創業者兼CEO Nerio Alessandri氏の掲げる理念をまさに反映した空間になっています。


「社員の健康への投資は、生産性、創造性、モチベーションの向上につながる」「社内のフィットネス活動は社内コミュニケーションを促進し、チームビルディングによい影響を与える」といった発想のもと、同オフィスでは会議室の椅子がバランスボールになっていたり、ロビーには多数のランニングマシンが設置されていたりと、敷地内でさまざまなフィットネス活動が可能です。また社員向けのフィットネスプログラムや健康に関するセミナー、スポーツイベントも日々開催されています。

 

ポイントは、これらジム機器の利用やプログラムなどへの参加はあくまで任意であること。社員が会社生活を送る中で自然とブランドの世界観に没入でき、心から同僚とのフィットネス活動を楽しめるようなオフィス環境づくりを意識しているといいます。

 

フィットネス活動を通じた社員同士のコミュニケーションがTechnogymのブランド体験に直結しており、チームビルディングなどの組織面にもメリットをもたらしている事例となっています。


オフィスの体験価値を活かしたインナーブランディング

コロナ禍以降のテレワークの普及によってオフィス勤務が当たり前ではなくなった今、オフィスの価値が改めて問われています。オフィスでしか創出、提供できない価値に着目し、オフィス回帰を唱える声も少なくありません。


オフィスデザインを活用したインナーブランディングは、まさにそうしたリアルなオフィスならではの体験価値を活かした取り組みだといえるでしょう。オフィス空間の設計においても、社員が納得し、共感し、魅力を感じられるような体験設計の視点が重要になっているのです。




体験創造研究所
体験創造研究所