コラム

2022.03.04

マーケティングに科学とAIを活用する【音楽業界・海外事例】

アイキャッチ画像

マーケティングの現在


今回は、科学や先端テクノロジーのマーケティング活用について、音楽業界に焦点を当てて事例を紹介します。


マーケティングに欠かせない市場予測。

現在では、主にアンケートやヒアリングを通じてターゲットの意識や行動を調査し、収集したデータを分析することで行われています。

しかし、これら既存の調査では、ターゲットにとって言語化が難しい感情や、そもそも意識下にすら上ってきていない心の動き、すなわちインサイトを把握するのは不可能に近いでしょう。


なぜ先端科学を活用するのか

これに対し、昨今では、脳波や心拍数などの生体情報をもとに、ターゲットの無意識下にある心の動きをデータとして解析したり、AIで人の心の動きを予測したりして、マーケティングや顧客体験創出に活かそうとする動きが見られるようになっています。

従来デプスインタビュー等でしか取得できなかった心の動きを定量的かつ客観的にデータ分析が可能になるため、より高い精度で市場予測を行えるようになると期待されているのです。中でも、消費者の脳活動からインサイトを抽出してマーケティング活動を展開する「ニューロマーケティング」は、世界的に注目度が高まっています。

今回は特に音楽業界に焦点を当てて、こうした取り組みの最新の事例を紹介しましょう。

そうした課題の解決に向け、どのような取り組みが行われているのでしょうか。


脳科学とAIでヒット曲を予測する:NTTデータ×Billboard JAPAN

脳科学とAIで人間の脳活動を推定する技術「NeuroAI」(株式会社NTTデータ)は、Billboard JAPANとの連携プロジェクトにおいて、音楽トレンドを可視化してヒットソングを予測することに成功しています。

(参考:Neuro AI Webサイト


こちらのプロジェクトでは、CDセールス、ストリーミング数、ダウンロード数など8種類の項目からなる総合楽曲チャート「Billboard JAPAN HOT100」(対象は2016年12月~2020年3月)にチャート入りした楽曲の歌詞やコード、音質の特徴、そして楽曲視聴時の推定脳活動を数量データ化して「NeuroAI」に読み込ませ、ヒットの要因やその時系列による変化を学習させたとのこと。その結果、4カ月先までの音楽トレンドを予測できるようになったといいます。中でも、特に予測が困難な「急上昇チャート」で精度の高い予測ができているのが興味深いところです。


今後は、レコード会社向けの「ヒットをつくる技術」として応用していく構想も。新人アーティストの楽曲を解析してヒット予測と照らし合わせ、アーティストの育成やマーケティングに活用できるのではないかと期待されています。


AIで感情を予測し、パーソナルプレイリストを作成:TROMPA

スペインのポンペウ・ファブラ大学を中心とした市民参加型の研究プロジェクト「TROMPA」では、音楽から引き出される感情をAIで予測し、パーソナライズ化されたプレイリストを作成する取り組みを行っています。

(参考:TROMPA Webサイト

音楽を聴く女性

プロジェクトに参加した一般市民は、「TROMPA」のプラットフォーム上でパブリックドメインの楽曲を複数視聴し、それぞれから引き起こされる感情を「テンションの高低」「感情のポジティブ/ネガティブ」の2軸による4象限マップで回答。続いて、回答の理由をテンポ、コード、イメージするシーンなどの項目で記入します。一通り回答すると、回答結果や参加者の属性(出身国、母国語など)をもとに、AIが楽曲から引き出される感情を予測して、参加者個別のプレイリストを自動作成。回答すればするほどに予測の精度が向上していきます。


また、他の参加者のプレイリストや、回答の全体傾向を閲覧することも可能。「同じ楽曲でも、参加者の文化的背景によって引き起こされる感情が異なる」「聴き慣れない異文化圏の音楽であるにもかかわらず、馴染みのある自文化圏の音楽を聴いたときと似た感情が引き起こされる」といった体験を通じて、音楽と感情の関係性を楽しく学べるようになっています。


ニューロリサーチで音楽のヒットを予測する:iMOTION

オランダ発のニューロリサーチサービス「Unravel Reserch」の研究では、生体指標解析ソフトウェア「iMOTION」プラットフォームを活用したヒット曲の予測に成功しています。

(参考:iMOTION Webサイトニューロリサーチ

研究では、23名の被験者が、ニューリリースのアルバム2枚の収録曲の抜粋を視聴し、それぞれヒットするかどうかを予測。併せて、「iMOTION」を使って視聴中の被験者の脳波データを取得・解析し、脳活動の類似性からヒット予測を行いました。そして、対象となった楽曲のストリーミング数を最大10カ月後までモニタリングした結果、被験者が主観で予測していたものよりはるかに高い精度で、「iMOTION」が人気を予測できていたことがわかりました。


生体指標解析の中でも、脳波データを活用するアプローチは比較的低コストで実施可能。一般的な市場調査より少ないサンプル数でも高精度のトレンド予測ができることからも注目されています。


感情データを活用した市場予測とマーケティングの未来

以上のように、無意識下にある感情の推察データを取得・解析することで、市場予測の精度を向上できれば、より効率的にマーケティング投資ができるようになるでしょう。また、言語化できない心の動きのデータに基づいた、新たな顧客体験創造の可能性も広がります。今回フォーカスした音楽産業はもちろん、あらゆる業界での活用が期待できるはずです。


今後も引き続き、最新の動向に注目していきたいところです。


体験創造研究所
体験創造研究所