コラム

2022.04.15

ニューロマーケティングとは?|広告のクリエイティブを評価する【海外事例】

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ニューロマーケティングとは

脳科学の知見とテクノロジーを用いた新たなマーケティング手法「ニューロマーケティング」。

脳波計やMRIで脳活動を測定したり、アイトラッキングや表情認識を活用したりして、商品や広告に対する消費者の反応を計測し、データを解析してマーケティングに応用するものです。



このニューロマーケティングにより、従来のアンケート調査や面接調査では把握できなかった言語化以前の感情を可視化することが可能になります。消費者の行動や心理を大きく左右する無意識の部分を捉えられるようになることで、より効果の高いマーケティング施策を展開できるようになるとして、注目が集まっています。


広告の効果を予測・評価し、改善点を明確化する

ニューロマーケティングが活躍する領域のひとつが、広告制作です。広告の効果を事前に正確に予測したり、出稿後の効果を客観的に評価したり、さらにクリエイティブの課題を明確化して改善に活かしたりする目的で、ニューロマーケティングが活用されています。

 

今回は、実際に海外のニューロマーケティング調査会社が動画広告のクリエイティブを評価、解析した事例を3つご紹介しましょう。


刺激、感情と広告の効果の関係を明らかに:Neurensics

オランダの食品会社Bolletje社による2種類のTVCMを調査したNeurensics社の事例では、CMを視聴した消費者の脳活動と視線の情報から、クリエイティブを客観的に評価しています。

( 参考:Neurensics Webサイト

2つのCMは同じ商品を訴求し、コンセプトも共通ですが、シチュエーションが異なります。他社が事前に行ったアンケート調査では、期待できる効果(商品認知、企業やブランドの想起、メッセージ認知など)は同等との予測でしたが、実際には2.5倍の売上差が生じていました。


この理由を解析するべく、同社は被験者にCMを見せながら、MRIを使って13種類の感情を測定するとともに、アイトラッキングを実施。その結果、より高い売上を達成した広告のほうは、同社がベンチマークとする「効果の高い広告」の感情プロファイル(引き起こされる感情の種類と強弱のバランス)との相関性が高いことが明らかになりました。同時に、効果の低かった広告を観た被験者は、メッセージとは関係のない要素(シチュエーションに関わる個所)に気が散り、ネガティブな感情を引き起こされていることも判明したのです。2つのCM間における相関性の差は2.6倍で、売上の差とほぼ一致しています。

 

複数のデータを組み合わせ、CMが消費者にもたらす刺激と、購買意欲に関わる感情の関係性を分析し、クリエイティブの改善点を具体的に抽出した好事例だといえるでしょう。

 

ブランド認知効果と貢献要素を可視化:CoolTool

CoolTool社では、AIウェブカメラのアイトラッキングと表情認識を活用したニューロマーケティング調査を行っています。

(参考:Cool Tool Webサイト

CMを視聴する被験者の視線と、7つの感情(喜び、驚き、恐怖、否定、嫌悪、悲しみ、懐疑)を記録し、両者をリンクさせた形で反応を測定。感情とその強弱の度合いの変化を時系列でグラフ化したり、CM動画にヒートマップを重ねたりして視覚化しています。



2019年に放映されたペプシのCMを調査した事例では、たたみかけるようにユーモアが繰り広げられるダイナミックなプロットに対し、視聴者はシーンが変わるたびに刺激を受けて、感情を動かされていることが明らかに。中でも、人気ヒップホップアーティスト カーディ・Bの登場時にもっとも「喜び」の感情が高まるのが特徴的です。

 

さらに、被験者をペプシファンとコカ・コーラファンに分けて引き起こされる感情を比較した結果、ペプシにネガティブな印象を持つコカ・コーラファンにおいてさえも徐々に「喜び」の感情が高まり、CMが終わるころには「懐疑」などのネガティブな感情を上回っていることがわかったのです。

 

視聴者の視線と感情を結び付けて分析し、CMのブランド認知効果やブランドイメージ向上効果を客観的に評価するとともに、効果に貢献する要素を明確化している事例だといえます。


脳にポジティブな反応をもたらす要素を抽出:Unravel Research

Unravel Research社は、脳波測定とアイトラッキングにより、ソニーのテレビ「ブラビア」のCMを分析しています。

(参考:Unravel Research Webサイト

サンフランシスコの街中を無数のカラフルなスーパーボールが跳ねるという印象的なCMですが、意図せずして盛り込まれた「小さなカエルが排水管から飛び出す」というシーンが、視聴者に対して特段ポジティブな感情を引き起こしていることがわかりました。



 この結果を受け、カエルのシーンをカットしたCMについてもテストしたところ、視聴者のCM全体に対する注意力が大幅に下がってしまうことも判明。製品特徴やブランドメッセージなど、カエルとはまったく関係のない要素の伝達性も落ちてしまうことがわかりました。

 

理屈では説明しきれない脳の反応や、それらをもたらす要素を明らかにし、クリエイティブ制作に活かしている事例になっています。


ニューロマーケティングの未来

動画広告などのクリエイティブをより客観的に評価し、改善に活かせるようになるニューロマーケティング。

現時点では画像や動画など、主に二次元・平面的なクリエイティブが対象で、それらがもたらす視覚的な刺激がもたらす反応を事前・事後に測定している形ですが、今後さらなる発展も期待できるでしょう。

例えば、将来的には、三次元・立体的な空間からの五感刺激に対する反応をリアルタイムで計測し、あらゆる顧客体験へ活かせるようになるかもしれません。

 

引き続き、ニューロマーケティングの技術発展に注目したいところです。


体験創造研究所
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