コラム

2022.07.15

顔認識技術を店舗体験にどう活用するか

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リアル体験の質評価の難しさ

顔認識を始めとする生体認証技術が活躍するのは、金融機関での本人確認やスマートフォンのログインといったセキュリティ領域だけではありません。近年では小売業界の店舗体験向上を目的にこれらを活用する事例も見られるようになっています。

 

実店舗はECサイトなどと比べ、体験価値向上に向けたPDCAを回しにくいのが課題です。ECサイトでは「サイト滞在時間」「カート放棄率」といった多様な指標で顧客の購買プロセスを数値化し、体験を客観的に評価、検証することが可能。また各顧客の属性や閲覧履歴、購入履歴などのデータをもとにした機械学習により、パーソナライズ化したレコメンドを行うこともできます。

 

これに対して実店舗におけるリアル体験は「顧客は店舗内をどのように移動したか」「商品への関心度合いはどの程度だったか」「どの時点で購入をやめたか」といった一連のプロセスを可視化できず、客観的な質の評価が困難です。その結果、接客などのサービス提供が属人的になりやすく、体験の質を標準化しづらくなっています。

 

こうした課題への解決策として、顔認識技術を始めとする生体認証を活用した店舗オペレーションが採用され始めているのです。


顔認識技術で店舗体験を向上させる

店舗体験向上を目的とした顔認識技術は、店舗内の顧客行動を可視化したり、実店舗における購入履歴などのデータを蓄積したりする形で活用されています。国内外の具体事例を3つご紹介しましょう。


オペレーションを機械化し待ち時間を削減:Harrild&Sons

イギリス・ロンドンにあるパブHarrild&Sonsでは、AI顔認識技術を活用した店舗オペレーションを試験的に行っています。


イギリスのパブで飲み物などをオーダーする際は、来店客自らカウンターに赴いて注文し、代金を支払い、商品を受け取るのが一般的です。バーテンダーはカウンター付近に集まった来店客の順番を目視で確認していますが、混雑時には割り込む客もしばしばで、顧客満足度の低下につながっています。

 

これに対して、同店が導入したシステム「AI Bar」では、順番待ちをしている来店客の顔をカメラが認識し、自動で注文待ちリストに追加していく仕組みを実現。バーテンダーはリストをもとに正しい順番でスムーズに注文対応できるようになっています。また、リストでは未成年の可能性があると検知された来店客が一目でわかるようになっており、よりスムーズに年齢確認を行うことも可能。さらに来店客の顔に紐づけて注文履歴を記憶させられるため、次のオーダーで同じ商品をスピーディに提供できるようにもなっています。

 (参考: AI Bar 紹介記事

顧客の待ち時間を削減して店舗体験を向上させるとともに、オペレーションの効率化によって売上増を図っているのが、本事例のポイントだといえるでしょう。


買い物客を認識して実店舗体験をパーソナライズ化する:Ruti

アメリカのアパレルブランドRutiは、顔認証技術を活用したCRMにより、実店舗における顧客体験のパーソナライズ化を図っています。


買い物客は初来店時にカメラで顔写真を撮影され、本人が許可した場合は、購入アイテムや試着アイテム、その他属性などのデータが顔写真と紐づけられた形でCRMに登録されます。買い物客が再度来店した際には、カメラが顔を認証してCRMから顧客情報を呼び出すとともに、その顧客の好みに合いそうな商品ラインナップや推奨サイズをシステムが自動でピックアップ。店舗スタッフはこれらの情報を参照しながら、パーソナライズ化した接客ができる仕組みになっています。

 

さらに、同ブランドでは、実店舗とECサイトそれぞれから収集したデータの統合も行っています。これにより、実店舗での購入・試着履歴をECサイトでのレコメンドに活用したり、ECサイトで得たデータをもとに実店舗での接客の質をさらに向上させたりすることも可能です。

 

オペレーションの再現性を高めることでサービスの質を標準化するとともに、パーソナライズ化された接客で顧客エンゲージメントの向上を狙っている好事例となっています。

(参考:紹介記事


来店者の属性をAIカメラで分析してマーケティングに活用:one×one

国内では、東京・新宿でシェアリングストアサービスを展開する「one×one(ワンバイワン)新宿ミロード店」での取り組みが注目されています。

 

こちらでは、貸し出している棚ごとに設置しているAIカメラで来店客の年齢、性別などの属性を解析し、その結果を出店者にフィードバック。出店者はデータを活用して商品のターゲティングを検証できるのはもちろん、広告やキャンペーンなど販促施策の効果測定も可能です。将来的には「この属性の来店客は棚の何段目に注目していた」「特にどの商品に興味を持っていた」といったより細かなデータも収集できるようにし、出店者が陳列の改善に活かせるようにする構想もあるといいます。

(参考:one×one Webサイト

同店舗における出店者の多数を占めるEC企業が、サイト上の数値データだけでなく、実店舗での顧客のリアルな反応をもとにマーケティング施策のPDCAを回せる仕組みを作っている点が特徴的な事例です。


デジタルとリアルが融合する店舗体験

顔認識技術は、デジタルとリアルそれぞれの顧客体験をデータでつなぐ有効な手段のひとつだといえます。Rutiの事例で顕著だったように、顧客の顔と各種データを紐づけることで、デジタルとリアルを行き来するカスタマージャーニーの中でシームレスな店舗体験を提供できるようになるのです。




このように顧客、店舗双方にとって利便性が見込まれる顔認識技術ですが、プライバシーに関する議論も避けて通れません。今後どのようにルールが整備されていくのかも含め、その動向に引き続き注目したいところです。

体験創造研究所
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